目的地へ行こう

まだたどり着いていない人のブログ。

日本以外で死にたくない

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 シヴァは昼飯を食べたサイババのいる店に寄った。睨み付けてふっかけてきた店だ。冗談ではない。腹も減っていないし、シヴァのためにビールを奢る気なんかまったくない。タイや中国では、よくしてくれた人にばんばん奢ったが、シヴァには嫌だ。私は車から出なかった。シヴァは一人で行き、ビールを飲んでいる。そのうち、昼間は手のひらを返したように冷やかな態度をとったサイババが、もう一度手のひらを返し、にこにこ笑って近づいてきた。馬鹿たれが。無視した。

 

 街灯などない、真っ暗闇の中をぼろ車は走る。見えるものは道路脇の草っ原と空に広がる星ばかりだった。それでも、何を見るではなく、ぼけーっと外を眺めた。そんな時、車のライトが突然人だかりを映した。

 一体なんだ。

 シヴァはスピードを緩め始めた。と、そこで対向車線に何かが転がっていた。肉の塊のようだ。血のような赤みも少し見えた。犬か、いや犬にしては大きすぎる。牛か、しかし、丸太のような形だ。牛ならもう少し平べったいはずだ。まさか?

「何だあれ。人間か?」

やや興奮して私は尋ねた。

「違う、人間じゃない」

シヴァはそう答えたが、自信はなさそうだった。車を停め、シヴァは人だかりに向かって叫んだ。戻ってきた答えはやはりそうだった。

「人間だ」

人間が転がっていた。あの肉の塊は人間だったのだ。シヴァは他には何も言わなかったが、さすがに少し驚いたようだった。いや、驚いている、と私が思いたかったのかもしれない。見飽きた見物人たちはぞろぞろと帰りはじめている。だが、転がっている死体はそのままだ。いつまで、そこにそのままで転がっているのだろう。もし、私がひかれたら、同じようにそこに転がったままだろう。誰だか分からず、ただの肉片として。日本にいる人たちには、私の身に何が起こったのかも分からないまま。孤独だ。耐えられないほど孤独だ。そこに転がっている人は、それまで色々な経験をし、様々な人とも接してきたことだろう。しかし、今はただの肉の塊だ。見物人もすぐに見飽きる、暗闇の中で道路にほっぽられたままの、ただの肉の塊だ。

 旅人と旅行者を分けるのなら、旅人とは、まったく自分の故郷というものを持たない人達のことを言うのだろう。どこの土地にも留まらない。どこの土地にも執着しない。だから、どこで死んでも構わない。私は日本以外で死ぬのはごめんだ。そんなことになったら、とてつもなく寂しい。寂しすぎる。私は旅人ではない。ただ、気まぐれでぷらっと出掛ける旅行者だ。