飛行機では、日本人の若い夫婦と隣になった。彼らは私の風体を見て、とても興味を覚えたようだった。
「話には聞いたことあるのですが、あなたは一人でまわって来たんですか。宿の予約もとらずに」
「ええ」
控え目に答えはしたのだが、彼らの見せる驚きの表情は、バックパッカーをとても喜ばせる類のものであった。聞かれるままに、私は旅の思い出話をべらべらとしゃべり続けた。
「インドの一人旅なんて、簡単には真似できませんね。危険なこともあるでしょう。それに、健康を保ち続けるのが難しいのではないですか。私たちなんてパック旅行なのに、すぐにお腹を壊してしまいました」
奥さんも、隣で深く頷いている。自分としても腹を壊さなかったのは大満足だった。心の中で‘いやーそれほどでも。あっはっはっは’と大きく笑っていた。
しかし。
インドはそんなに甘くない。乗客が寝静まった夜、“そんなはずはない”としばらく我慢してはみたのだが、とうとう耐え切れずトイレに行った。ついにきた。調子に乗るとろくなことはない。ただ、それほどひどくなく、涼しい顔を保っていることは出来た。エアコンで冷えたかな。
しかし。
インドはそんなに甘くないのだ。日本に降り立ち検疫を通り過ぎ、成田エクスプレスで横浜についてから、またもやきた。ちょっと今回は並の腹痛ではない。トイレになんとかたどり着いた。そして、分かった。並の痛さではないはずだ。赤かった。私の便は赤かった。
日本の人々は、まず赤痢なんて持ち込まれていない、と思っているだろう。たとえ赤痢患者がでたとしても病院に隔離されている、と考えているだろう。だが、実際は野放し状態の時もあるようだ。
その後、実家で三日間寝込んだのであった。
ハードなんだ。インドって。