目的地へ行こう

まだたどり着いていない人のブログ。

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ひっくり返ったトラック

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 何にもない所にひたすら延びている道を、車は時速六十~七十キロメートル位で走った。その私たちを‘HORN PLEASE’と後部に書いたトラックがどんどん抜き去っていく。今やホーンを鳴らされ脇に避けているのは高級車の方である。抜いていくトラックは全て完全な過積載で、日本だったらとっくに捕まっている。一杯に積み上げられたさらにその上に、一メートル半位の木の棒が、五十センチ間隔で斜め四十五度外側に張り出されている。荷台の周囲に張り出したその一本一本は、それぞれ紐で結ばれていた。そこに、さらにあふれる位の荷物を積んでいる。いつ事故が起きても不思議ではない。時には人を満杯に乗せたトラックも走り去る。雑然とした過剰とでも言おうか、やはり日本とは違う。そういうものを感じながら、窓から外を眺めていた。すれ違う人々とは時々、にっこりと笑顔を交わす。気持ちのいい風だった。そんな時、珍しく人だかりができている所にふと目をやった。‘HORN PLEASE’。トラックが一台ひっくり返っていた。

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 牛追いに引き連れられた牛たちに近づき、私が写真を撮っている間に、シヴァはボンネットを開け、高級車を休ませる。ゆったりとしたペースの旅を続けていた。道は何もない所を突っ切っている。すいていた。だが、トラックが道の細くなったところで立ち往生して、めずらしくちょっとした渋滞になったときがあった。このときシヴァは警察が検問でもやっていると勘違いしたようだ。私に‘寝たふりをしろ’と手で合図した。それとは別にパトカーが通り過ぎたときも、彼は私に寝たふりをさせた。何か悪いことでもやっているのだろうか。白タクということだろうか。それにしても、旅行代理店で雇った高級車に乗りながら、寝たふりをしなければならないとは。インドとはなかなか難しいところなのだ。

 また、一台後ろからホーンを鳴らしてきた。‘プープープープーーッ’と何度も。今度はただの追越しではないらしい。シヴァはなにやら楽しそうだ。後ろから迫って来たバンの運転手は、シヴァの友達だった。わけのわからぬインド語でお互い叫び合っている。バンの助手席には日本人が座っていた。きっと‘今日は儲かったでー’とでも言っているのだろう。ところで、その日本人。よく見れば小林君じゃないか。手を上げたが向こうは気づいていない。私としても、安くあげる方法をあれこれ教えた手前、車をチャーターしているのは面目無いといった感じなので、気づかれないで半分ほっとはしたのだが。そのバンは、一度抜き去ったかと思うと、また、スピードを落として近づいてきた。窓からビールを渡そうというのだ。

「ヤーーッ」

シヴァは歓声を上げ、ぐびぐびっとやった。私も回してもらってぐびぐびっとやった。生ぬるく気の抜けたビールだったが、乾いた喉には何でもうまい。上機嫌のシヴァは、瓶を外にぶん投げて、

「He is my friend!」

と叫んだ。