気を取り直したところで、もう一度タージマハールに行きたかった。
「タージマハールに行ってくれ」
「タージマハール?」
シヴァは、またか、という顔をした。そう、また行きたいのだ。気持ち良くタージマハールを見たいのだ。
しかし、次に停まったのは土産物屋だった。
シヴァよ、お前もか。
「俺はタージマハールに行きたいんだ」
シヴァはいいから入れとあごで促した。‘この野郎’と思ったが、車をどこに走らせるかはシヴァが決められることなのだ。ここはガマンである。
この店はカーペット屋だった。まったく興味はない。店員は懸命に説明していたが、話半分ですぐに出た。さあ、もういいだろう。今度こそは。
「タージマハールだ」
しかし、またもや土産物屋だった。シヴァからはもう離れたかった。だが、明日ヴァラナスィーに行くためには今日中にニューデリーに戻らねばならない。それになにせ百ドルも払っているのだ。くやしいが、シヴァに連れ帰ってもらうしかないのだ。無力だった。もう疲れた。シヴァに従い、店に入った。店員の話を黙って聞き、頃合いをはかって店を出た。
そして、シヴァはまたもや別の店に。
怒る気力もなくなった。今度のは店内に何も置いてない。そこに若い男が入って来た。「いい話があるんだ。カーペットを運んで欲しい」
「それなら知ってるよ」
「知ってる?」
「ああ、すべてを知ってる」
そう言い残して車に戻った。男は乗り込んだ私を追いかけてきて、また尋ねた。
「すべてを知ってるって?」
「そうだ、すべてを。日本人なら皆知ってるよ」
「日本人全員が?」
男は心配そうな顔をした。
「何を知ってるんだ」
「商品は日本に届かない」
「………」
「カードも使うんだろ」
「そうだ、それから?」
「帰ってから請求される金額には、ゼロが一つ多い」
そこまで聞いて、男はさっと立ち去った。