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夕暮れのタージマハールを見たい

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 スルタン・サラフディン・アブドゥル・アジズ・シャー・モスクの体験が強烈すぎたのだろうか。これと同等のものをどこかで期待していたのだろうか。タージマハールを見た時の感動は思った程ではなかった。整備された庭園に白いモスクは映えていたし、裏側に回ったときに見える川とのどかな田舎の風景は、心を和ませた。だが、何か足りない。三十分と時間を限られていたせいもあるだろう。夕暮れのタージマハールを見れば、また違うかもしれない。そう思いながら、一度は、タージマハールを出た。

 「タージマハールはどうだった。美しいだろう」

「ああよかった。でも夕暮れのほうがもっといいだろう」

「“夕暮れのほうがもっといい”……Good」

ガイドは私の言葉を繰り返し、いい答えだと頷いた。

 車に乗り込んでからガイドは言った。

「これから町を案内する。そして夕方にもう一度タージマハールに戻る。それでいいか」

「ああ」

ガイドがその行程をシヴァに告げると、突然彼は怒りだした。どうやら早く帰りたいと言っているようだ。ガイドはそれをなんとか説得しようとしたが、シヴァのあまりの怒りに口をつぐんだ。一呼吸おいて落ち着きを取り戻してから、ガイドは私に話しかけた。

「これから市内を観光するけれど、その前に、綺麗な石やいい土産物を売っている店を知っているからそこに行こう」

今度は私が怒る番だ。

「私はそういうものは欲しくはない」

「いいから、とりあえず行ってみよう。いいものがあるから」

「行きたくないと言ってるんだ」

こいつは本当にガイドだろうか。ただ、ものを売りつけるために近づいてきたのではないか。東南アジアでよくあったように、こいつが店から紹介料をもらえるようになっているのか。

「私を信じなさい。あなたにとって悪いことじゃない」

「店には行かない。観光に行け」

しばらく二人は押し問答を繰り返した。その間、シヴァはその店に向け車を走らせ続けた。この時に気づいた。車を運転しているのはシヴァであり、最終的にどこに行くかは、シヴァが決められることなのだ。そして店とつるんでいるのはシヴァなのではないか。

「いいから、私を信じなさい。あなたは私を信じないと言うのか」

車はすでに店に向かっている。買う気はなかったが、ここは少しつきあうしかない。

「信じられるかどうかは、店の後で判断する」

「“店の後で”……Good」