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まだたどり着いていない人のブログ。

カルカッタへの準備

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 リクシャーを拾って空港行きのバスが出ているターミナルに向かった。そこは近郊だけでなく、長距離の色々なバスが出ていて、どこに行けば空港行きがあるのかさっぱり分からなかった。どうやって見つけようかと考えていると、おじさんが寄ってきて教えてくれた。その人はただのバス待ちのおじさんだったが、自ら寄ってきて教えてくれたのだ。しかも場所は合っていた。こんなことインドでは初めてだ。

 バスは直通ではなく市バスだったので二ルピー位だった。ばかみたいに安い。出発すると車掌の少年が金を集めにきた。細かいのは五ルピー札しか持っていなかったのでお釣りが必要だったが、少年は丁度小銭がきれてしまった。「後で持ってくる」と彼は言い残した。しかし、ここはインドだ。まずお釣りがくることはないだろう。だが、簡単に誤魔化せると思われるのは嫌なのでできるだけ抵抗しようと思った。少年は、運転手の横の、客席とは透明のプラスチック板で遮られた車掌室に戻った。そこには何もしないでただ座っている男が他に三人もいた。この三人はそこに座っているだけで給料をもらっているのだろうか。少年は釣り銭がなかったことを彼らに告げたようだった。でも、誰も特に反応はしなかった。

 それから、少年が料金を集めにくる毎に、

「釣りはまだか」

と尋ねた。だが、彼は‘まだだ’と手を振るばかりだった。お釣りの期待は出来ないし、怒ってもいけないのだ。粘り強く自分の主張を繰り返す。それがここでは一番いいのだ。

 デリー最後の日は良いことが多かった。降りる直前になって、少年は釣り銭を持ってきた。カルカッタでも人との巡り合わせには恵まれたいものだ。

 空港は航空会社別に二箇所に別れていた。バスを降りた所は行きで使うインド航空側だったのだが、帰りのサハラ航空の窓口は別棟だった。あらかじめリコンファームを済ませるために、そちらまで歩いて行くことにした。出入口の警備兵に断って一度空港から出してもらった。隣までは道が折れ曲がっているので五百メートルはありそうだ。夕方といえどもまだまだ暑い。タクシーの運ちゃんもそれは分かっているので、すぐに声をかけてきた。もちろんこの位のことではタクシーなどには乗らない。だが、バックパックを背負って歩くというのは、暑い中では結構きつい。すぐに汗が吹き出してきた。それを見込んで、また同じ運ちゃんが車を寄せてきて叫んだ。

「おーい、乗ってけよ」

やはりタクシーを使う気などない。

「Noー」

運ちゃんはとても気の短い奴らしく、何か怒鳴って唾を吐き捨てた。

 それから一分程たってからだった。また同じ運ちゃんがきた。彼はさっきのことは何も無かったかのように、笑顔で言った。

「乗ってけよー」

こういうインド人の態度は、陽気で細かいことにはこだわらない、という感じではない。厚顔でタフといった表現が近いだろう。日本ではその土地に住む人々の気質を表す言葉として、“江戸っ子”だとか“もっこす”だとかがあるけれども、インド人の中でもこういう気質を持っている人達を表す言葉が何かあるのだろうか。それともそういう気質をもっている人は、ただ、インド人、と言うのだろうか。

 カルカッタ行きの便は、二十時から二十一時に出発時刻が変更になっていた。ただでさえ到着が遅いのにまたさらに遅れた。泊まれるところを無事に見つけられるだろうか。空港から市街地まではバスで五十分かかるらしい。かなり遠い。それに時間的にバスはきっとないだろう。タクシーを使うなら、空港のタクシーカウンターで行き先別にチケットを買えるらしい。空港内で手配できるのならあてにできそうだ。そのタクシーに乗って安宿街に着きさえすればなんとかなるだろう。

 カルカッタの安宿街はサダル・ストリートといって、タイのカオサン・ロードと並び、世界中のバックパッカーの間では有名なところだ。宿、食堂、旅行代理店が沢山並んでいるに違いない。カオサンは旅行者にとってとても便利な所で夜遅くまで賑わっていたから、サダルもきっと大丈夫だ。カルカッタはインドの中でも一番強烈にカルチャーショックを受けやすく、治安も悪い、と聞いていたから不安も感じる。だが、空港内でタクシーを手配してサダル・ストリートに着きさえすればいいのだ。なんとかなるだろう。

 空港での待ち時間は、少しでもことがスムーズに運ぶための準備に費やした。トイレで、今夜の宿泊までに使うだろう金を腹に巻いた貴重品袋から、取り出しやすい首に下げた貴重品袋に入れなおす。小銭はズボンのポケットに入れる。そして、リコンファームの済んだカルカッタからデリーに戻るチケットは、腹の貴重品袋に入れる。待合場に戻ってから、擦りむいたところに消毒としてイソジンを塗る。バンドエイドもしっかり貼る。それから、手足の爪を切り、ウェットティッシュで手と顔を拭く。清潔に保つのは、病気をしないために一番である。手がきれいになったところで、梅丹ドリンク作りを始める。梅丹とは、梅肉エキスであり、薬局や自然食品店に売っている。梅の消毒力は強力で、これを食後に飲むと腹を壊しにくいそうである。効果のあることを信じて、旅をするときはいつも飲んでいる。錠剤とペースト状の二種類あるが、より吸収しやすいペースト状のものをミネラルウォーターに混ぜていつも持ち歩く。ベルトに引っかけた水筒を取り出し、混ぜ合わせてシェイクする。それが終わってから、蚊よけスプレーを身体にかける(空港内でも蚊がいる)。荷物の出し入れが終わればバックパックには鍵をかけて、後ろからチャックを開けられないようにする。背負っていると気付きにくいので、開けて盗むという手口があるのだ(実際、マレーシアで男二人組が、開けようとして近づいてきたことがあった)。これで、準備完了。私は用心深い。そしてだからこそ今まで置き引き、スリ、ひったくりの類にあったことはない。もらったオレンジを食べて寝てしまったことはあっても(「よくある手口~睡眠薬」)。列車にカメラを置き忘れたことはあっても。