目的地へ行こう

まだたどり着いていない人のブログ。

チフスか

 私は、ベトナムで大変な苦しみを味わったことがある。おそらく元はカンボジアから始まっていたのだろう。カンボジア最終日に、知り合った五人の日本人達で食堂でビールを飲もうということになったのだが、そこのビールのグラスには氷が入っていた。一人でなかったこともあり警戒心がなくなっていた私は、少し位大丈夫だろうと飲んでしまった。まだそれだけなら多少よかったろう。酔いにまかせておかわりまでし、後になって思い出してみると、しまいには氷までばりばり食べていたようだ(私の癖である)。それだけではすぐには腹を壊さなかったが、胃腸に負担をかけていたことは確かだ。それからベトナムのサイゴン(ホーチミンシティ)に入り、暑い中を疲れ切るまであちこち出歩いた。さらに、(当時)そこでは貧乏旅行者用の丁度いい食堂が見つからなかった。旅行者を想定した国では、客を集めるためにそれなりのきれいさと(といっても汚いことは確かだが)、口にあったメニューがあるのだが、ベトナムではどこもかしこもひどく汚く(金を出せば綺麗な所もある)、選びやすい料理もなかった。朝食もパンなら大丈夫だと思って買ったところ、見かけよりもひどく油っぽく、というよりは押すとしみでるほど油ぎとぎとで、追い打ちをかけた。他の国ならそこら中で売っていた瓶のジュースもなかなかなく、へばったときは、旅行者用でない店で、包丁で切っている果物を食べた。買って飲んだミネラルウォーターは腐っていた。これだけ条件がそろったお蔭で、ベトナム二日目からおかしくなり、ついに激しい下痢と発熱が私を襲った。細菌性の下痢用に用意しておいた抗生物質を飲むと症状は落ちついたが、わずかしか持っていなかったため、それがきれるとすぐにぶり返した。ベトナム五日目の夜が一番きつかったと思う。憔悴してやせ細り、‘このまま死ぬんではないか’と夜になると怖くなって外が白み始めるまで寝つけなかった。身体がつながって生まれたベトちゃんドクちゃんの入院した病院が近くにあったのだが、ベトナムの医者というのが信用できなくて行く気にはなれなかった。ベトナムで風邪をひいて注射を打たれた人が、間違って神経に刺されて半身不随になったという話が本に載っていたためだ。日本に帰る日が間近に迫っていたので、それまでなんとか耐えようと頑張った。

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 この時、持参した薬が足りなかったことはすごく後悔した。安くあげ、少しでも荷物を軽くしようという魂胆だった。日本でチフス等に効く抗生物質を処方箋なしで売ってくれる薬局は限られていて、そこまで出掛けて行って購入したのだが、そこの専門家の意見を無視してしまったのだ。体力に過信を持ち、荷物を減らしたいので二日分しか買おうとしない私に、いきなり

「私の所まで何しにきたんだ!」

と薬局のおやじがどなりつけた。日にちと行く先により旅行者が持っていくべきと考えられる適量に私が従わなかったから、職人気質のおやじの癇に触ったのだ。怒鳴りつけられて私も意地になり、海外旅行は五回目だし、東南アジアではフィリピンにも行った経験がある、それに事情ってもんがあるんだ(あたかもすごい貧乏人であるかのようだ)、と頑張った。おやじは、私の旅行経験から納得した。それに、とっても貧乏なのだろうと思ってサービスまでしてくれ、結局、三日分持って行くことになった。が、それでも少ない。これが失敗だった。合わせてそこのおやじは、無理な予定を立ててはいけないよ、と忠告をしてくれたが、これも無視してしまった。

 この薬局は、東京都内にある赤玉薬局。やはり、プロフェッショナルの意見には耳を傾けるべきである。宿のすぐ外にミネラルウォーターを買いに行くにも息をきらし、ベッドとトイレで苦しみ、死の恐怖も感じたとき、私は心底後悔した。

 

 その後、どうにも耐えられなくなって近くの薬局に薬を買いにいった。変な薬を渡され逆に他の所が悪くなりはしないかと心配して我慢してきたのだが、ついに買うほうがリスクは少ないだろうと思う所まで憔悴した。実際行ってみると、フランスで薬局を開いているが休暇で戻ってきた所だという人がいて、私の症状を丁寧に聞き、「体力に合わせた薬にしてくれ」という心配にも「大丈夫だ」と答えてくれた。もらった薬を飲むとぐっと症状が良くなった。現地の病気には現地の薬が効く。もう少し早く行っていれば治るのも早かっただろう。