目的地へ行こう

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精悍な顔つきの人リクシャー 運転手

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 ラージ・ガートは独立の父、マハートマ・ガンジーが荼毘にふされたところだ。礼儀として入口で靴を脱がねばならない。そこには男が座っていて勝手に靴を見張っている。彼の目の前に靴を置けば金をとられる。これは彼の仕事である。でも、私には必要ない。だから、三メートル程離した。中に入ると石畳が続くが、太陽に熱せられているので皆脇に避けて芝生の上を歩く。しかし、荼毘にふされた台の周囲では石の上を歩かねばならない。これがとんでもなく熱い。石畳の上を走って台を取り巻くむしろの上に乗ったが、これも長くいるには熱い。インド人は足の裏の皮が厚いようで、私のようにみっともなく小走りになったりしない。うやうやしく花を置き、丁寧にガンジーの冥福を祈っている。私もとりあえず手は合わせてみた。実感としては何もない。北京の紫禁城に入ったときは、映画『ラストエンペラー』を観てみようと思った。まだ観てはいないが。でも、この時は、『ガンジー』を観てみようという気さえおきなかった。とにかく熱かった。

 向かいのガンジー博物館に歩いていった。門の前では人リクシャーのにいちゃんが客を待っていた。私が見えてくるとすぐに近寄ってきた。

「乗っていかないか」

青の派手めの服を着ている。リクシャーを仕事とする人は皆薄汚れた恰好をしているのだが、彼は比較的小綺麗だった。そして、機転が効きそうな精悍な顔つきをしていた。

「これから博物館をみるんだ」

「それならその後で乗ってくれよ」

「いいよ、でも俺はゆっくり見るから、いつ戻ってくるか分からないよ」

「それでもいい」

そう言いながら彼は博物館の門も一緒に入ってきた。そして、

「中を案内しよう」

と言った。

「落ちついて見たいから、一人で行かせてくれ」

本当に落ちついて見たかったし、案内料を請求されるのが嫌だった。彼はあっさり引き下がり、外で待った。言ったとおり、私はゆっくりと博物館を回った。暑さでへたばっていたので、何度も座り込んで休んだ。そんなこともあって、小さい所だったが四十五分はかかった。でも彼は待っていた。出てきた私を見つけ、勢いよくリクシャーを引っ張ってきた。

「どこに行く?」

「ラール・キラー(デリー城)まで」

行き先も聞いていないのに待っていたなんて。きっと海外からの旅行者だけを乗せることにしているのだ。もうけ幅は大きいし、何かいいことが起きる期待を、あるいは手だてを持っているのだろう。

 彼はどんどん走った。大通りから小道へ、小道から土埃舞う凸凹道へ。道を外れているような気がしないでもない。だが方向は合っている。

“大丈夫だろう。きっと近道に違いない”

 そして、道はだんだん砂地になった。車輪は少しずつめり込んで行く。上り坂で彼はついに力尽きた。いくら引っ張ってもめりこんだ車輪は動かなかった。一度は降りようとしたが、彼はそれを制した。人リクシャー魂というやつだろうか。客の手は煩わせないという気概を持って、彼は懸命に引っ張った。だが、やはり坂を上り切れず、私は降りた。彼は一言、

「Sorry」

と言った。

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 砂地の道を進むと、左手には掘っ建て小屋の小群落が見えてきた。いわゆるスラムというやつだ。ひと気はまばらだった。昼過ぎのもっとも暑い盛りなので、おそらく食事をしているか寝ているかだろう。それにしてもにいちゃんはいい道を通ってくれた。通常のルートで旅をすれば、こういうところには来られない。さらに、彼は一度リクシャーを停め、記念写真まで撮ってくれた。支払いの時、最初に決めた言い値より上乗せしてきても、少しなら出してもいいという気になった。そういう気にさせるのだから、彼はなかなかのやり手である。小綺麗な服を着ているわけもその辺にあるのだろう。

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 左手のスラムに気をとられていたが、彼は右手を指さして何か言った。大きな池があり、そのずっと先には工場が見える。だが、その池をよく見ると水は灰色に濁り、場所によってはヘドロと化していた。そして、ぶくぶくぶく、と両手分のあぶくが所々で不規則に上がっている。灰色の砂地はどうやらこのヘドロが乾燥したものらしい。ここは工場の影響で汚染された地域なのだ。誰も住みたくないからこそ、ここにスラムが出来ているのだ。彼はこの状況を見せたかったのだ。写真も工場をバックに撮った。何か伝えたいから走りにくいのにわざわざここに連れてきたのだ。

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