「メインバザールが近くにあるニューデリー駅に降ろしてくれ」
とチケット売り兼車掌のおっさんには頼んでおいた。メインバザールは安宿の集まる所である。しかし、途中のコンノート・プレイス近くで道沿いにゲストハウスの文字が見えた時、フランス人と一緒に私達は降りた。
「メインバザールよりこの辺のほうが静かでいいんだ」
とニューデリーが二度目のフランス人は、お気に入りの宿に向かった。小林君と私もさっそく宿探しを始めたが、近くのゲストハウスと看板が出ている所は中に入れば廃墟だった。宿を見つけるのには多少は歩きそうだ。
そこで、とりあえずは腹ごしらえをと近くに見えたファーストフード調の店に入った。注文は、わけのわからない名前のついたもののプレーン。プレーンとつけばすっきりしていて癖はなさそうだ。そして、忘れずに、「辛すぎないだろうな」と確かめた。タイで一度痛い目に合っているのだ。それ以来辛さには用心深くなっていた。いつも「ノーホット」と言い、“はあはあ”と舌を出し、走った後の犬状態を見せて、辛くないかと確認することにしている。
しかし、ここで出てきたプレーンの料理。あまりにすっきりしていた。厚いクレープの皮のようなものが一枚、その上には野菜も肉も載ってない。ナンだったと思うが、バター風味もなくまさにプレーンだ。味付けはカップに入ったカレー風味の液体。薄味だがこれがあるからとりあえず料理を食べている、という感じになる。夕食にしてはちょっと寂しいけれど、そこはきりつめ型バックパッカーなのだから十分だと思って食べるのだ。
‘バシャー’
三口食べたところでカップを倒した。よりによってこんな時に。
「あーあ」
残るはプレーンの皮一枚。
「味がなくなったね」
小林君が同情してくれた。しかし、この程度のことで、安くあげる旅を目指す者は追加注文などしない。
「大丈夫、大丈夫」
追い打ちをかけるようなプレーンソーダを片手に、控えめの夕食を楽しんだ。