そうこうしている間に、また後からもう一人日本人が来た。彼(小林君)は西欧以外を歩くのは始めてという人だった。とても不安だったらしい。客引き攻撃から逃れるため、日本人の私たちを見つけるや、やって来たようだ。客引きも、不安そうな彼なら押せばなんとかなると思えるのだろう。バス待ちの所に並んでも、何度も客引きがやって来た。彼はなかなかそれをきっぱりと払いのけられない。
「なんかすごいなー。話には聞いていたけれど、こんなに沢山寄ってくるとは思わなかった。それにしつこいよね」
とすっかり驚いている。
「インド人を見ても誰がいい人だか分からないよね。皆、騙そうと思って近づいてくるように見える」
と嘆いた(まだ騙されてはいないのだけれど)。
小林君は旅慣れていないせいもあり、インド人を怖く感じたのだろう。思えば私もそうだった。初めての貧乏旅行の出発点だったカトマンズに着いたときは、寄ってくるネパール人に恐怖を感じた。空港内に金をとる荷物持ちがいることは知っていたが、実際に体験すると体が強張った。強引に荷物持ちを買って出られると、顔を引きつらせながら「No」と言ってはみたものの、結局しつこく言い寄られて手渡してしまった。きっぱりと断れなかった。その後、隣の国内空港に移ろうとしたときも、道を聞いた奴に危うくひと気のないところに連れていかれるところだった。引っ張られたけれども、怪しいからその場で頑張った。でも、すぐさま振り切って立ち去るまではできなかった。そのうちに空港の職員が来て追っ払ってくれた。この時は良い人にあたったが職員だって皆助けてくれる訳ではなく、見て見ぬ振りをすることもある。すっかり怖くなり、ネパール人に囲まれて国内線を待っているときは、無理して煙草をふかし、余裕のある振りをしたものだった。
あの時の私のように小林君はすっかりびびってしまっている。もう夕方だし、町に出てからもどうなるんだろう、と不安にかられている。
「よかったら、今夜泊まるところを一緒に探したいんだけど」
「ああ、一緒に行こう」