「両替はできたか」
KUMAR が私を迎えた。
「ああ、大丈夫だ。ありがとう。金も返すよ」
「リクシャーは幾らで行った?」
「教えてもらった通り、五十ルピーで行ったよ」
二人で雑談をしているときに、一昨日深夜まで待っていてくれた少年が来た。日本でいえば中学生ぐらいで、すばしっこそうだ。この少年も私の帽子がすぐに気に入ってしまった。今度は嫌な予感は、あまり、しなかった。また彼にも貸してやった。
「写真撮ってやろうか」
喜んで彼はポーズをとった。中国では昔の映画のポスターのような気障なポーズをとっている人を何度か見かけたが、インドでは少しくだけたポーズが流行りのようだ。椅子にだらしなく腰掛け、足を投げ出した。さっきのひょろ長いのと同じだ。
写真を撮った後、KUMAR と話しを続けていると、少年は帽子をかぶったままどこかに消えてしまった。これもひょろ長いのと同じだ。インドは油断ならない。
「俺の帽子を貸したままなんだけど」
KUMAR は驚き、すぐに奥へ行って少年を大声で呼んだ。でも、なかなか姿を現さない。もう外に消えてしまったのではないか、と二人で心配になりだした頃、少年は半分笑みを浮かべながら戻ってきた。こういう人達なのだ。このくらいのことは日本と比べればよくあることとか習慣とかいうのに近いんじゃないか。こういう国なのだ。
部屋で出発の荷造りをしていると、その少年がやってきた。
「今日、カルカッタに行くんだって?」
「ああ、そうだ。ここはいい宿だったよ。ありがとう」
少年は何か言いたげにしながら、私の荷造りを見守った。
「写真は送ってあげるよ」
「約束だよ」
「必ず送るよ」