デリーのインディラ・ガンジー・インターナショナル・エアポートはよく管理されていた。部外者が中に入り込んでくるということもない。ネパールのカトマンズでは、税関に行くまでに部外者が寄ってたかって手荷物を取り上げ、ポーター料を請求してきた。空港の係員はそれを見て見ぬふりだった。カンボジアのプノンペンでは、入国審査の青年は、旅行者が並んで待っているにも関わらず、しばらくぼけーっと自分の世界に浸っていた。しかし、それならまだいい。フィリピンではぐるになった係員に金をまきあげられた。そのやり口はこうだ。
税関で申告書を見せると、係員がそれを取り上げた。しかし、空港出口で別の係員が、「税関申告書がないと外に出られない」と言う。確かに他の人達はその用紙をここで渡している。そこで税関に戻ると、係員は代わっていて申告書がどこにいったかはもう分からなくなっている。しかたなくもう一度出口に行くと、ありがたいことに十ドルで新しい申告書を売ってくれた。
このようなことに比べれば、インディラ・ガンジー・エアポートの係員の対応はごくまともだった。ネパールやベトナムのような“俺がお前を入国させてやるんだぞ”みたいな高圧的な入国審査もない。インドはやはりそれなりに進んでいる国でもあるようだ、とこの時は思った。
空港から町までは十七キロメートルある。ニューデリーの中心地であるコンノート・プレイスまでの直行バスを使いたかった。税関を出て右手にタクシーやらバスやらホテルやらの予約カウンターが並んでいた。こっちに来いとあちこちで手招きし、タクシーやホテルをすすめてくる。東南アジアでもよくある光景だ。彼らをかわしているうち、バスチケットを売るおっさんを見つけた。コンノート・プレイスまでは二十ルピー(一ルピー=約二.七円弱)だという。これは相場だ。これに決めた。
バス代は相場だったが、このおっさんは小銭稼ぎに余念がない。後から来た日本人の青年には、二十ルピーに加えて荷物代として三ルピーを請求した。荷物はリュックサックで、私より少し大きい程度だった。着いたばかりの時は、これがルールかと思って払ってしまったりするのだ。「その必要はない」と私は彼に合図を送った。
旅の強者から聞いたナンバーワンの遺跡
彼は結構いろんな国を回っていて、一人旅の経験は私より豊富だった。南米、アフリカと私が踏み込んだことのない地を歩いていた。彼の話で一番面白かったのは、エジプトのピラミッドよりもペルーのインカ帝国の遺跡(マチュピチュ)のほうがすごい、ということだった。
この話を聞いたのは二度目だ。カンボジアのシェンムリアップ(アンコール・ワット、アンコール・トムがある)で出会った日本人も同じことを言っていた。三十代半ばのその人は、すでに百か国は訪れたという強者で、遺跡周りが好きな人だった。その人が今までのナンバーワンはやはりインカ帝国だ、と言っていた。どこがどういいのかはとても主観的な話になるのだが、まあ、とにかくマチュピチュの遺跡はすごいらしい。その後に続くのは、ピラミッド、ミャンマーのパガン朝の遺跡、アンコール・トム(アンコール・ワットの近く)の三つだそうだ。その当時このうち私が見たのはまだ一つだけだった。死ぬ前には必ず行ってみたいと思った。
(この後、私も行って来ました。)
マチュピチュ
ピラミッド
パガン朝
アンコール・トム