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クマール

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 翌朝はまず両替をしなければならなかった。昨日の両替では金額が小さすぎて、カルカッタへの移動を考えると今日使う分には足りそうになかった。しかし、その日は日曜日だった。でかいホテルでないと両替できないだろう。フロントに行ってネパーリーに聞いてみた。さっそく彼は目ぼしいホテルに電話をしてくれた。

「Silver Palace HotelのMANOJ KUMARだけれども、両替をしたがっているお客さんがいるんだ。そちらではやってくれるだろうか」

ただの安ゲストハウスの青年を高級ホテルの受付が知っているかは定かでない。だが、KUMAR は私のために何とかしようとしてくれていた。

 両替のできるホテルはなかなか見つからなかった。たとえ両替をしていても、宿泊客以外には両替をしなかった。

「ないんなら闇でもいいよ」

「闇はだめだ。彼らは信用できない」

確かに闇両替は信用できない。私は普段は闇を使わないことにしていた。レートは正規のものより有利だが、札の枚数を減らしたり、わざと計算を間違えたりと隙あらばごまかしてくる。「警察だ」と叫んで、金を受け取るだけでとんずらしてしまうケースもあるらしい。だまされた方も違法と分かっているだけに警察には訴えられない。客側が明らかに不利な立場にある。

 それにしてもKUMAR は本気で私のことを気づかってくれている。知っているホテルに片っ端からかけた。普通なら、数件で面倒になって投げ出してしまうだろう。

「そうだ、アショーカホテルがある」

そこに最後の望みを託した。

 果してそこでは両替をOKしてくれた。

「リクシャーで行くんだ。ここからなら往復五十ルピーで行ける。それ以上払う必要はないぞ」

リクシャーの相場まで教えてくれた。

「分かった」

「金は持ってるか」

「大丈夫、五十ならある」

「もしもの時のために、これも持ってきなよ」

KUMAR は二百ルピーを差し出した。私の宿泊代はわずか百ルピーである。ぎりぎりまで値切っての百ルピーの客だ。まさか貸そうとしてくれるとは。大丈夫だからと断っても彼は引っ込めようとしない。

「ありがとう」

「You are my friend.」

KUMAR はウィンクした。