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アショーカホテル

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 日曜の朝の道は空いている。リクシャーは軽快にとばした。バイクタクシーも気持ち良くとばしている。バイクタクシーは客をバイクの後ろに乗せるタクシーだ。つまり、ただの二人乗りである。運転手にはターバンを巻いたシーク教徒が何故か多かった。その宗教的な恰好から写真に撮られるのは嫌がるのではないかと思ったが、カメラを向けると走りながら笑いかけてくれた。爽快だった。雲一つない快晴の朝がデリーでは最も気持ちの良い時間だ。

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 アショーカホテルは七階建ての大きいホテルだった。門に立つ綺麗な制服を着たホテルマンが、丁重に「おはようございます」と迎えてくれた。門から建物まで三十メートルはあった。建物の中もとても綺麗で、今まで見てきたものとは全く違う世界だった。さっきまでは金持ちの日本人として見られていたのだが、ここに入ると一転して汚い恰好をした貧乏旅行者に成り下がってしまう。石鹸を使って揉み洗いした程度では落ちない汗と埃が、シャツを薄汚くしていた。しかも、片方の袖は伸びている。ズボンは手間がかかるので洗っていない。髭も剃っていない。外では段々目立たなくなっているのだが、このホテルの中では逆に目立つ。通りがかる客達は私を見て顔をしかめた。

 両替所の係員は、一人が両替を受け付けている最中で、もう一人は客用のソファで新聞を読んでいた。服も普段着で、客だか係員だか分からない。高級ホテルではあってもやはりインドの姿というのは見えてくる。くつろいでいた男は、記事を読み切ってからゆっくりガラスの向こう側に回った。そして、人指し指でこっちに来いと私を呼んだ。

 その時、ふと奥の祭壇に目をやった。けばけばしい神様の絵や像が置かれ、花で飾られている。それだけならよくある光景だ。だが、中央に置かれている見覚えのある写真が目に入った。“麻原彰晃だ”何故彼が。その時日本は地下鉄サリン事件で揺れ動いていた。その麻原彰晃がここにもいた。しかも祭壇の中央に飾られている。

「よく見たいんだ。近くで見させてくれ」

係員はすんなりと中に入れてくれた。“生死を超える 麻原彰晃”と日本語で書いてある。誰かが持ってきたのだ。インドでもオウムは布教活動に精力的なのだろうか。まさか信者は増えているのか。係員に聞いてみた。

「彼を知っているのか?」

係員は即座に答えた。

「いいや、知らない」