次に訪れたアグラ城でもまだ気分はすっきりせず、赤砂岩でできた大きく風格のある城も、ただのつまらぬ建物にしか見えなかった。
そんな気分を和らげてくれたのはチャイ屋(インドではミルクティー)のおやじたちだった。
「おーい、一杯やってけよ」
仲間同士でお喋りをしながら、通りすがる観光客に声をかけている。
「よー、日本人かい」
「どこから来た?とーきょー?おーさか?」
「くまもと、だよ。きゅーしゅーだ」
「きゅーしゅー。知ってる知ってる」
知らなそうだ。
「おーい、一杯やってけよ」
人を見かければおやじたちはすぐに声をかける。
「どお、煙草吸うかい」
おやじ三人は煙草をとった。
「そのライターもくれ」
ただの百円ライターである。差し出したら別のおやじがポケットにしまった。
「私が最初にくれと言ったのにどうして彼にあげるんだ」
「三人で使ってよ」
「そのライターは俺のだ」
もらえなかったおやじが半分笑いながら言い張った。
‘いいなーこういう感じ’穏やかな気持ちがまた戻ってきた。