目的地へ行こう

まだたどり着いていない人のブログ。

【スポンサーリンク】

アジャイ AJAY

f:id:koyoblog:20171025231416j:plain

 「あなたは日本人ですか」

そんな時近づいてきたのは、大学生AJAY SHARMA だった。それなりに綺麗な白いシャツにベージュのスラックス、革靴、そして黒縁眼鏡に緑と白のキャップ。腕時計までしている。なるほど大学に行ける位の金を持っていそうだ。それに、彼の目には人を見定めるような影はない。その話し方もいい加減なところはない。休みを利用して、南の内陸の方から親戚の家に遊びに来ているらしい。どうやら、金目当てで近づいてきたのではなく、ただ暇な休みに外国人と話したいだけのようだ。

 AJAYとは年齢も近いので話がはずんだ。そんな時、今度は近くに座っていたおやじが話しかけてきた。頭にぴったりとフィットする帽子をかぶった小柄な男だ。彼は仕事で日本に行ったことがあるという。YOKOという日本人と友達で、その人はインド人と結婚したそうだ。もの静かな口調の彼は、日本語が少し分かるので話しやすかった。だが、AJAYは彼とはあまり話しをしようとしない。とりあえずAJAYとジャマー・マスジッドをぐるりと見て回ることにして、おやじとは後でとてもうまいらしいチャーを飲みにいくことにした。しかし、AJAYが言うには、‘彼はガイドである’らしい。つまり、案内した後で金を請求するということだ。日本に出稼ぎに行き、帰国した後は、その時覚えた日本語を使ってガイドをやっているのか。ガイドといえば聞こえはいいが、親切で案内しているかのように見せて、後で料金を請求するというパターンである。そして、土産物屋に連れて行くここはアグラではない。町の交通手段はすでに分かった土地であり、次の目的地空港には、今日中に自力で行ける。もはや、ガイドは恐れるに足らず。まあ、本当にガイドかどうかは分からないが。私としては、AJAYの方が年齢も近くて面白そうなので、おやじは後で断ることにした。

 「尖塔の上に登れるんだろうか」

私がふともらすと、AJAYはすぐに登れることを聞いてきてくれた。登るには金が少しかかったが、それぞれ自分の分は自分で出すことにした。ここの感じで彼は確実に信用できると思った。私に二人分払わせようとするなら彼もガイドであるし、私の分も払おうとしても裏がありそうだ(シヴァも最初はおごった)。財布を心配そうに覗き込みながら金を払った彼は、どう見ても悪人ではない。

 尖塔に入るには、日なたのレンガの上を一時歩かねばならなかった。この熱さはとても耐えられないものだったが、彼にはまったくその気配がない。

「熱くない?」

と聞いても、

「少しね」

と答えるだけである。学生であっても、インド人は足の裏の皮が厚いようだった。日なたでは耐えられなくてぴょんぴょん飛び跳ねていると、彼は“そんなオーバーな”という風だった。

 足の裏の熱さと厚さはどうも理解できなかったようだが、彼は写真を撮るのを手伝ってくれたり、重いバックパックを持ってくれたりと、とても親切だった。狭い尖塔の階段を登る時は途中で代わろうとしても、どんどんバッグを持って行ってしまった。

f:id:koyoblog:20171025233149j:plain

 尖塔は上まで登るとこれがかなりの高さであった。しかも、人が登れる最高の高さの所は、尖塔の直径一メートル程の周りに、人ひとり分のぎりぎりのスペースがあるだけである。その囲いは膝の高さ程だ。尖塔はジャマー・マスジッドの境界に位置していて、モスク内部の広場側までの高さは二十メートル、モスクの外側までは四十メートルある。つまずいて足を踏み外せば一巻の終わり。突風が吹いてバランスを崩せば一巻の終わり。そこに腰掛け、AJAYと話した。