目的地へ行こう

まだたどり着いていない人のブログ。

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バイクで飛ばせ

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 舞台は長く、夜の七時から始まり、九時になっても終わらなかった。私はとても時間が気になっていた。Timestarに帰り着くためには、麻薬中毒者と、旅行者にじとっと目を向ける人の間を、通り抜けねばならないからだ。でも、もしホール出てしまえば面白いものを見逃すかもしれない。期待を込めて三時間も粘った。しかし、いつまでも退屈だった。

 十時きっかりに会場を抜け出した。地下鉄は運転を終えていた。サダル・ストリートまでは、二駅分で二キロメートルも離れていない。歩いても二十分程度だ。途中でちょうどいいバスでも見つかったら乗ってしまおう。私は歩きはじめた。ホールに来た方向と逆に進みさえすればいい。何のことはない。真っ直ぐに歩いた。ただ真っ直ぐ。簡単なはずだった。しかし、道はなぜか寂しくなってきた。カルカッタでは中心的な大通りであるはずなのに、なぜか寂しくなる。

 私は道が緩やかに曲がっているとか、曲がり角が三回もあれば、向かうべき方向は分からなくなってしまう。一度分からなくなると、元来た道を戻れなくなることもしばしばである。方向感覚の良い人にとってはまったく理解しがたいことだろうが、私にとっては正しい方向はまったく見分けがたい。頭の中で地図を描いたりもしてみたが、効果はない。それでいて十年ぶりくらいに通る道を、感覚を頼りに歩いてみればしっかり目的地についてみたりする。不思議である。

 大通りを真っ直ぐという簡単なことではあったけれども、きっと地下鉄のあった四つ角で間違ったのだ。四つ角だから、当たる確率は四分の一。元に戻れるか。戻ったとしてもあと三つ。

 その時、運が良いことに警官が通りがかった。

「サダル・ストリートってどっちですか」

間抜けな質問である。二キロメートル程離れている所からサダル・ストリートの方角を単に聞いているのだ。しかし、警官はさすがにプロである。こういった困った奴に対処する最善の方法が分かっていた。バイクに乗った警官を呼んでくれたのだ。

 でっかくて恰好いいバイクだった。その後ろにまたがった。夜のカルカッタを警察のバイクで飛ばせるなんて。警官とはそれぞれの身の上話を軽くしたりなんかして盛り上がった。‘爽快だ!’脳天気な夜だった。