目的地へ行こう

まだたどり着いていない人のブログ。

【スポンサーリンク】

鉄格子の部屋に泊まる

f:id:koyoblog:20170918001459j:plain

 Timestarのこの安い部屋に居座るならば、トイレは耐え得るものであるかどうか見極めねばならない。今は悪臭を放っている。しかし、まずは百二十の部屋が空くまでだ。それなら問題はない。

「とりあえずここでもいいよ」

そう言うと使用人は下に戻って行った。Timestarを探すのに汗をぐっしょりかき疲れていたので、服を脱ぎ捨てベッドに横になった。

 すぐにうとうとしだした。だが、悪臭はだんだん鼻につき、それとともに気分が悪くなり、眠気もさめてきた。むくっと起きだし、一発流した。それから、うとうとしたと思うとまたもや気分が悪くなり、もう一発流した。三回も流せば研ぎ汁はほぼ消えた。残された問題は残り香だけだ。それを消すために蚊取線香に火をつけた。懐かしい日本の香りである。蚊取線香を消臭目的で使うことになるとは思わなかったが、これは結構効果があった。おかげですっかり眠りについてしまった。

 “ドンドンドンドン”

使用人が思いっきりドアを叩く音で目が覚めた。一向に下に降りて来ないから様子を見に来たのだ。時間は一時間経っていた。まだ台帳に名前を書いていなかったし、金も払っていなかった。彼らが気にかけるのも当然だ。すぐに支度をして下に降りた。

「気に入ったよ。あの部屋でいい」

悪臭はほぼ消えていた。研ぎ汁も残っていないし、一時間もぐっすり眠れたのだから十分だ。

「百二十の部屋が空いたら教えるからな」

主人は好意で言ってくれているのだ。確かに窓に鉄格子の入ったあの独房のような部屋に、好んで入ろうとする人間はあまりいないだろう。だが、私にはあれで十分だった。静かで、ドアに鍵が付き、窓から侵入の恐れがない位に安全で、安く、病気にならないくらいに汚くなければ、それでいいのだ。

「あの部屋に泊まるから」

どう思ったのだろうか。主人は黙って私を見た。

(この時、もう大丈夫だと思っていたのだが、残り香はなかなか消えず、その夜、蚊取線香をつけっぱなしで寝ることになった。そのおかげで、悪臭ではなく蚊取線香のせいで、翌朝は気分が悪くなってしまった。)

f:id:koyoblog:20170918001520j:plain

 サダル・ストリートをぶらぶら歩き、ミネタルウォーターの安い店を見つけてから一度部屋に戻った。階段を上り、ドアまで来ると、そこには使用人の一人が寝ていた。ドアの前に薄いマットを敷き、上半身裸で横になっている。手には団扇を持ったまま、いびきをかいていた。昨夜泊まったそれなりの値段の所でも、廊下では使用人が寝ていた。これは、実際彼らに他に寝るところがないというのと、盗難防止の意味があるのではないだろうか。ただ寝るためなら、わざわざドアの前でなくとも他にも場所はある。盗難防止に違いない。しかしながら、ここで昼寝していた彼、ドアをあけるために足を動かしたのだが、起きる気配は、なかった。